予備校を途中で変えるべきか|元四大弁護士が「変えなかった側」から書く判断基準
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結論:点数ではなく、定着と答案で判断する
予備校が合わない気がする。でも100万円払ってしまった。変えるべきか、続けるべきか。
この問いに対する判断基準を、先に書きます。
見るべきは答練の点数ではありません。自分の知識が定着しているか、そして実際に答案を書けるようになっているかです。この2つが動いていないなら、教材や講義の相性を疑う理由があります。
各予備校は、強みも、記憶の定着のさせ方も違います。合わない方法を続けると、時間だけが減っていく可能性がある。
一方で、変えるという判断には、金銭的にも時間的にも相応のコストが伴います。**そもそも日本の法制度上、資格試験の予備校講座には法定の中途解約権がありません。**この点は後半で詳しく書きます。
先に断っておくと、私は変えていません
正直に書きます。私自身は、予備校を変えた経験がありません。
伊藤塾で在学中に合格しました。他社の単科や答練を足したこともありません。比較記事で「合格者の多くが複数の予備校を併用している」と書きましたが、私はその多数派ではなかった、ということになります。
理由は単純で、変える理由がなかったからです。
ただ、これを「だから1社で足りる」という話にするつもりはありません。私の場合はたまたま合っていたというだけです。
比較記事にも書きましたが、私が伊藤塾を選んだのは深く比較検討した結果ではありません。周囲がそうしていたから、半ば流れで申し込んだ。そして結果的に、インプット量の多い構成が学生で時間があり、暗記が比較的得意だった当時の自分に噛み合っていた。
**条件が違えば、同じ講座が重荷になっていたはずです。**働きながら学習時間が限られていたら、381時間の基礎マスター講座は消化しきれなかったかもしれない。
だからこの記事は、乗り換え体験談ではありません。変えなかった人間が、変えるべきかどうかの判断基準を整理するものとして読んでください。
なぜ答練の点数で判断してはいけないか
多くの人は、成績が伸びないことを理由に予備校を疑い始めます。
ただ、答練の点数は判断材料として弱いと考えています。
理由は3つあります。
**1. 母集団が各社で違います。**ある予備校の答練で平均点だったことと、本番で平均的な位置にいることは、別の話です。受講生の層が社ごとに違う以上、点数を横に比較することはできません。
2. 採点基準がその予備校の中でしか通用しません。添削単価の記事でも触れましたが、予備校のオリジナル問題は、その予備校の採点基準の中でしか正解が定まらない。点が伸びないのが自分の問題なのか、採点の癖なのかを切り分けられません。
**3. 短期的に動かない指標です。**論文力は、やったことが数字に出るまでに時間がかかります。3か月で点が動かないことを理由に講座を変えると、動き始める直前で捨てることになりかねません。
代わりに見るべき2つ
では何を見るか。自分の中で起きていることを見るしかありません。
1. 知識が定着しているか
講義を聞いた直後ではなく、1か月後に残っているかです。
テキストを閉じた状態で、ある論点について規範を書き出せるか。関連する判例の結論を言えるか。ここが動いていないなら、その教材の記憶のさせ方が自分に合っていない可能性があります。
**各社でアプローチが違います。**フルカラーのテキストで視覚的に整理する社、問題演習を繰り返して定着させる社、講義時間を厚くして反復で入れる社。人によって、どれが効くかは変わります。
合わない方法を1年続けても、定着しないものは定着しません。
2. 答案が書けるようになっているか
知識が入っていることと、答案として成立させられることは別です。独学の限界を分解した記事で書いたとおり、「わかっているのに書けない」という状態は、受験生が最も長く足止めされる地点です。
半年前に書けなかった問題が、今は書けるか。白紙から答案構成を立てられるか。規範を立てて、事実を拾って、当てはめまで形にできるか。
ここが動いていないなら、その講座が答案を書く訓練をどこまで組み込んでいるかを確認すべきです。講義とテキストは充実しているが演習と添削が薄い、という構成の講座は実際にあります。
「変える」は実質「もう一度買う」です
判断の前に、コストの構造を正確に把握しておく必要があります。
資格試験の予備校講座には、法律上の中途解約権がありません。
特定商取引法には、長期・継続的な役務と高額の対価を約する取引について、クーリング・オフと中途解約を認める規定があります。ただし対象となるのは7つの役務に限られていて、そのうち学習塾は学校の入学試験に備えるため、または学校教育の補習のための学力の教授と定義されています。
**予備試験・司法試験は、学校の入学試験ではありません。**したがって、資格試験の予備校講座はこの規定の対象外と解されます。
結果として、解約できるかどうかも、返金があるかどうかも、各社の約款次第ということになります。学習塾なら中途解約時の違約金に上限規制がありますが、それも適用されません。
詳しくは添削単価の記事に整理しました。
払った金額は、判断材料から外す
ここでよく起きるのが、サンクコストの問題です。
**100万円払ったのだから元を取らなければ、という考え方は、判断を歪めます。**払った金額は、続けても変えても戻ってきません。戻ってこない以上、これから先の時間をどう使うかだけで決めるべきです。
ただし現実には、変えるなら新しい講座の代金が丸ごと必要になります。だから正確に言えばこうです。
「変えるべきか」は、「もう一度数十万円を払う価値があるか」という問いと同じです。そして払った分は戻らない。この構造を理解したうえで判断してください。
変える前に、足りない機能だけ足す
全部を入れ替える必要がある場面は、実はそれほど多くありません。
比較記事で、学習に必要な機能はインプット・演習・添削・情報の4つに分解できると書きました。合わないと感じている部分が、このうちどれなのかを特定してください。
インプットは問題ないが演習量が足りない。講義は分かるが添削が薄い。こうした場合、その機能だけを単科で足すほうが安く済みます。
私自身、予備校の教材以外では**法科大学院の過去問を解いていました。**他社の講座を取ったわけではありません。問題演習の量が欲しかったので、入手できる素材で補った。
**足すべきものは、他社の講座とは限らない。**市販の演習書、公開模試、過去問。数万円以内で埋まる穴は少なくありません。
添削だけが足りない場合
ただし、添削だけは自前で用意しにくい機能です。
ここが不足している場合は、単科の添削講座や答練を検討することになります。添削単価の記事で計算したとおり、人による添削は1通あたり3,200円から6,300円が目安です。AI添削なら約130円で、形式の検査に限れば回数を稼げます。
それでも変えるなら
機能を足しても埋まらない。定着も答案も動いていない。そう判断したなら、変える選択はあり得ます。
そのときに確認すべき点が2つあります。
**1. 乗換割を使えるか。**他社から乗り換える受講生向けの割引を用意している予備校があります。アガルートの他校乗換割は20%OFFで、これは割引率としては大きい部類です。申込み前の申請が必要なので、後から気づいても適用されません。
**2. 今度は、何が合わなかったのかを言語化してから選ぶ。**これが最も重要です。
定着しなかったのか、書けるようにならなかったのか。前者なら教材の作りとテキストの形式を見るべきですし、後者なら演習と添削の構成を見るべきです。漠然と「合わなかった」で次を選ぶと、同じことが起きます。
そして、**講義の相性は文章では判断できません。**各社とも無料のサンプル講義や資料請求を用意しているので、申し込む前に必ず試してください。1社目を選んだときに比較検討しなかった人ほど、2社目は丁寧に選ぶべきです。
まとめ
- 判断基準は答練の点数ではない。母集団も採点基準も社ごとに違う
- 見るべきは知識が定着しているかと答案が書けるようになっているか
- 各社で記憶の定着のさせ方が違う。合わない方法を続けても定着しない
- **資格試験の予備校には法定の中途解約権がない。**変えるコストは実質全額
- 払った金額は判断から外す。これから先の時間だけで決める
- 全部を入れ替える前に、足りない機能だけを足せないかを検討する
- 変えるなら、何が合わなかったのかを言語化してから選ぶ
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。契約の解釈は、約款の内容と個別の事情によって結論が変わり得ます。